連載・特集

2024.11.4 みすず野

 道路の両脇で、ススキの穂が揺れている。髪を同じ色に染めている人もいるなと思いながら、その暖かそうな穂先を眺める。どこかキツネを思わせる色でもある。夕日に輝く様子はこの季節に限った美しさ◆子どもの頃、近所の「マッサクおじいさん」が、昔、隣村からの帰り道で、持っていた油揚げをキツネに取られたという話があった。冗談でなく、大人たちが真剣に話してくれた。その場所は何もない、ススキが茂っていただけだと◆そのおじいさんは小柄で、昔話に登場するような雰囲気を持った人だったとぼんやり記憶する。明治時代の生まれだろうが、キツネの一件がいつ頃の話だったか、ずっと気になっている◆その場所の上の方、住宅街になった一帯に住んでいる。油揚げを取られたという道沿いには、コンビニや飲食店、事業所が次々と建ち、先月はうなぎの店も開店した。朝夕は車が渋滞して、近道をしようと生活道路に車が入り込んでくる。ススキの穂を連想する太い尾を持ったキツネがここに現れることはもうないだろう。"油揚げ伝説"も忘れられてしまった。人の形をしたタヌキやキツネが行き交っているのかも。