2024.11.27 みすず野
県内にいくつもある無人駅には不思議と引かれるものがある。作家の山口瞳さんは「無人駅」というエッセーで「一ト月に一度旅行する。これは紀行文を書くための旅行であって、計画は出版社のほうで樹ててくれる」と書き始める(『木槿の花』新潮文庫)◆早朝、乗車している列車が無人駅を通り過ぎる。「そのとき、何だか、こう、胸を緊めつけられるような感情に襲われることになる。自分でもなぜだかわからないし、他人には説明のしようがない」という。無人駅に同じような感情を抱く◆20年以上前の今頃、京都市内で薬局を営むフォークシンガーの古川豪さんを招き、小さなコンサートを開いた。初めての企画だったが、30人ほどが集まった。その様子を含めて、大阪のテレビ局が「商店街のフォークシンガー」という30分の番組を制作した◆全くの偶然で、インタビューも受けたが番組ではカットされた。その中に県内の無人駅のホームを、楽器を手に歩く古川さんを撮影したシーンがある。実際にはこの駅で降りたわけではないが、制作者はその絵柄が欲しかったらしい。無人駅が特別な存在になったのは、この時からだ。