連載・特集

2024.11.25 みすず野

 「頬かぶり」を国語辞典で引くと「手ぬぐいなどで頭からほお・あごのあたりまで覆い隠すこと」(『明鏡国語辞典』大修館書店)とある。もうひとつ「知っていながら知らないふりをすること」との意味も載る◆手ぬぐいは木綿の布で「一幅を鯨尺で三尺(約一一四センチ)の長さに切ったものをいう」(『包み結びの歳時記』額田巌著、講談社学芸文庫)とある。これで頭から頬を包み、あごの下で結ぶ。各地でかぶり方が異なっているといい、農村では帽子代わりにしているとある◆大人の男性が真冬は?かぶりをして、さらに帽子をかぶっていた姿も覚えている。それだけ手ぬぐいが身近なものであり、寒さがいまより厳しかった証しなのだろう◆木曽の風土を写した『御嶽のふもとで』(澤頭修自著、信濃教育会出版部)には、昭和49(1974)年に建設現場で撮影した「労働」という写真がある。ヘルメットに頬かぶりをして笑顔で働く女性2人の姿だ。『―歳時記』には「頬かむりして父に似しさみしさよ」(青柳志解樹)の句が載る。昔のような頬かぶりを、もう何年も見ていない。行き来する人の姿は変わってゆく。