連載・特集

2024.11.20 みすず野

 松本市音楽文化ホールのステージで、谷川俊太郎さんは中央に立っていた。フォークシンガーの小室等さんと娘のゆいさん、谷川さんの息子で作編曲家、ピアニストの賢作さんがいた。小室さん親子の歌に賢作さんも加わり、谷川さんが詩を朗読した。9年前の夏だ◆谷川さんを初めて知ったのは、武満徹さん作曲の「死んだ男の残したものは」の歌詞。高石ともやさんが歌っていた。「死んだ兵士の残したものは/こわれた銃とゆがんだ地球/他には何も残せなかった/平和ひとつ残せなかった」という歌詞に心を揺さぶられた◆訃報が届く。92歳。現代詩のスーパースターだったが、歌詞もたくさん書かれ、詩集の作品に曲が付けられた歌も多い。中でも小室さんは7年前に発表したアルバム「プロテストソング2」の全曲など、多くの作品を歌っている◆その中の「死んでから」という歌詞はこうだ。「私の骨は粉になったらしい/(中略)これから何が起きるのか/もう何も起こらないのか/もうちょっと死んでみないと分からない/私は良い人間だっただろうか/もうおそいかもしれないが考えてしまう/死んでからも魂は忙しい」