2024.11.15 みすず野
「秋風」と題したエッセーを、小説家の小沼丹さんは「風には春風、秋風、木枯らし、微風、疾風、その他いろいろあるが」と書き始める(『珈琲挽き』講談社文芸文庫)◆「先日、珍しく天気の好い日、散歩に出たら気持の好い秋風が吹いていた。秋風と云う奴は追憶をそそる所があるが、その秋風に吹かれたら、すっかり忘れていた或る光景を想い出した」と続く◆昔、散歩に出たら、2台の自転車に追い抜かれた。前には宗匠頭巾のようなものをかぶり白足袋を履いた50年配の男、後ろは丸刈りの小僧さんが荷台に大きな風呂敷包みを乗せていた。僧衣が入っているのだろう。のんびりと大根畑の間を走って行った光景を思い出すと◆秋風とともに手に取るのは「70年代のロック・シーンを飾った素晴らしいアーロ・ガスリーの作品『ホーボーズ・ララバイ』」(『USAフォークビート物語』(鈴木カツ著、シンコー・ミュージック)。昭和47(1972)年に発表されたアルバム。今頃の時期に手に入れた。刻々と世界の動きを伝えるラジオを切りレコードに針を下ろす。秋風はきょう、一人一人にどんな思い出を運んでくるのだろう。