連載・特集

2024.11.12 みすず野

 読書法には多読、精読、速読、味読などさまざまある。精読しなければならない場合は、集中して文字を追う。味読は楽しみのうちだろうか。速読は必要に迫られる意外、まずできない◆戦前のある夏、小説家の堀辰雄は周りの若い人たちに輪読会をやろうと提案した。テキストに選んだのはフランスの詩人・ヴァレリーの『ユーパリノス』。のちに小説家となった中村真一郎さんは、その理由を「当時、二十歳ばかりの私がむやみと本を雑読する癖があり、それを精神にとって危険だと」堀辰雄が考えたからだという(「長い読書」『高校生のための批評入門』筑摩書房)◆本を速くしか読めなかった芥川龍之介の例を挙げ、ゆっくり読む訓練をしないと「芥川さんのようになるよ」と注意してくれたのだ。その方法で最も熱心に、精密に読んだのはドイツの小説家、トーマス・マンの『ファウストゥス博士』で、実に30年かけて読み終えたそうだ◆積ん読もある。最近あちこちで取り上げられている『積ん読の本』(石井千湖著、主婦と生活社)は、この名人12人のインタビュー集。はるか末席に加われるかもしれないとページを繰る。