連載・特集

2024.10.5 みすず野

 『池波正太郎 粋な言葉』里中哲彦著(夕日書房)に、正太郎が少年のころに住んでいた東京・浅草の「永住町」が「元浅草」という町名に変わったことが書かれている。「吐気をもよおすような町名に木端役人どもが変えてしまった」。当時の正太郎の怒りようが伝わる言葉とともに◆松本市芳川地区の住居表示から芳川がなくなり10余年がたつ。従来、芳川小屋、芳川村井町、芳川平田と表示されていた場所が平成25(2013)年10月1日から小屋北1丁目か小屋北2丁目となった◆「芳川」の名称は、明治21(1888)年4月の町村制公布により小屋、野溝、平田、村井町の4カ村が合併して芳川村になって生まれた。村名は、4カ村用水という「川」によって長年結ばれてきた四つの村が、今後ますます「芳」しくなることを祈念したものだと、平成22年10月31日付の小紙連載「脚光」が伝えている◆現筑北村を形成する旧3村との合併協議から、麻績村が離脱したのは新町村名の決め方での齟齬がきっかけと記憶している。地名には、歴史や住民の思いがこもる。簡単に変えたり、決めたりできるものでないと思い知らされる。