2024.10.22みすず野
孔子、孟子の言葉を引き、人間は40歳でおのれの世界観を確立し「のちの人生を揺るがずに過ごさねばならぬ」という作家の浅田次郎さんは続けて「しかし齢七十にもなって、アジフライをどのように食べてよいかわからぬ」と語る(『アジフライの正しい食べ方』小学館)◆編集者と取材旅行で訪れた「関アジ・関サバ」で知られる大分県佐賀関で、大好物のアジフライを食す。浅田さんはしょう油、男性編集者はソース、女性編集者はタルタルソースを選択。後日、かかりつけの若い女性のマッサージ師に聞くと、何かをつけると皆同じ味になるので「何もつけない」と◆再び孔子の「七十にして心の欲するところに従えども、矩を踰えず」を引き、七十になったら何をつけようが好きにすればいいが「揚げものはなるたけお控えなさい、ということだな」◆これを読んでまさか海鮮丼やラーメンは食べられない。アジフライ定食を求めて出かけた。何度も味わっているがその度に満足した店に着きメニューを広げた。アジフライがない。いつの間にか消えていた。こんなオチは不要だ。名文は味わったが、舌で味わいたいのだと落胆した。