連載・特集

2024.10.20 みすず野

 冷え込みの厳しくない夜、入浴時に風呂の窓を細く開ける。体が冷えないようにしっかり肩まで湯に漬かり、外から聞こえる虫の鳴き声の合奏に耳を澄ます。優雅な気持ちになれる、秋のちょっとした楽しみだ◆いい声で鳴く代表のスズムシは『鳴き声から調べる昆虫図鑑』高嶋清明著(文一総合出版)によると、最も有名な「リーン、リーン」という声は縄張り宣言で「競い鳴き」と呼ばれる。回りにライバルがいないときは「リー、リー」と短く区切るように鳴き「ひとり鳴き」と呼ぶそうだ◆スズムシというと松川村を思い出す。村観光協会はパンフレットで、日本唯一のスズムシ保護条例があるとPRしている。保護することで村の豊かな自然環境と田園景観の保全につなげているとも。村マスコットキャラクターの「リンリン」と「りん太」はスズムシがモチーフだ◆『まいにち暦生活』高月美樹監修(ナツメ社)に「秋の夜、野山などで虫の音を楽しむことを虫聞きといい、平安時代から行われて」きたことを教わる。江戸時代には花見や月見、菊見、雪見と並ぶ庶民の楽しみだったという。先人から後世へ受け継ぐものを思う。