連載・特集

2024.10.2 みすず野

 新総理になって、夜遅く私邸に帰る。そこには家の子郎党が大勢集まっている。皆が万歳三唱をする。首相になれたのは彼らのおかげなのだから功をねぎらわなければならない。ここで引き出物が配られるそうだ。丸谷才一さんのエッセー集『好きな背広』(文藝春秋)にある◆かなり値の張るものが出るらしい。佐藤栄作さんは第一次内閣成立の夜、全員に3000円の弁当を配ってあっと言わせた。昭和39(1964)年のこと。「つまり、あんまり倹約なので、みんなが感心したわけなのだ」と◆対照的なのは田中角栄さんで、一人一人に30万円の札束を贈ったと。「普通は、三千円と三十万円の中間(と言ったのでは幅が広いけれど)のものが、ただしもちろん現ナマではなく、贈られるらしい」という◆石破茂さんは昨夜、何を贈ったのだろう。あるいはそんな余裕はなかったか。9日に衆議院解散、15日公示、27日投開票。すぐには解散しないと言っていたのに。政治家の言葉がこんなに軽くていいのだろうか。「ご祝儀相場」狙いとも。有権者の判断材料は、岸田政権で問題になったままの裏金、旧統一教会、マイナ保険証だろうか。