連載・特集

2024.10.13 みすず野

 松本とゆかりが深い人である。文化勲章を受けた鋳金工芸作家で歌人の香取秀真(1874~1954)だ。「生誕150年/没後70年」が名称に盛り込まれた企画展が12日、松本市美術館で開幕した◆松本市入山辺の三城に、秀真の歌碑がある。生前、松本の人たちとの交流が盛んだったことを示すものだ。秀真が亡くなった翌年の昭和30(1955)年に、親交のあった松本の文化人の池上喜作や与曽井湧司、百瀬嘉郎らが建立した◆碑には「都由乃處羅 久裳奈九者連天 由幾能古流 能利久良太計遠 萬知可久所美留」と陽刻される。つゆのそら くもなくはれて ゆきのこる のりくらだけを まぢかくぞみる-と読む。揮毫は直筆で、喜作の芸術関連の収集品「池上百竹亭コレクション」の中にある、秀真の書が使われている◆妻が現在の塩尻市出身で、松本を訪れる機会が多かった。昭和10年には、喜作らの肝いりで鉄瓶頒布会が松本で開かれた。松本になじみ、美景を歌に詠んだのも自然のなりゆきだったに相違ない。松本を想い、生み出された鋳金もあるかもしれない。そのような目で並ぶ作品を鑑賞するのも一興だろう。