連載・特集

2024.9.20みすず野

 ちくま文庫の今月の新刊『本の身の上ばなし』(出久根達郎著)に「『猫』の稀覯本」という1編がある。昭和23(1948)年に54歳で亡くなった猫の本のコレクターで劇作家の水木京太は、露店の古本屋で『猫』という本を買い求めた。読み始めて中身の充実ぶりに驚き、慌てて引き返すと、そこにあった17冊を買い占めた◆家では家人が好まず猫を飼えない。代わりに本を集めた。15年に発表した「猫の言葉」という文章で猫は「威武に屈せず」生きる動物で「力に征服されずに好悪に就く」と書く。「『威武』や『力に征服』うんぬんは、暗に軍国主義を指している」という◆『猫』は明治43(1910)年の発行で著者は養蚕指導者。蚕の敵はネズミで養蚕農家は猫を飼ったが「本を買って勉強する者は少なかった」ため、売れ残って見切り本屋に引き取られた。昭和55年に誠文堂新光社から復刻本が出ているそうだ◆きょうから「動物愛護週間」。猫を飼っているが「愛護」しているかな。ただ、最近の物価高で、猫の餌を買うために働いているのかと思うことも。猫でこうなのだから、大型犬の飼い主は大変だろうなと想像する。