連載・特集

2024.9.17みすず野

 忘れられないテレビドラマに、昭和48(1973)年に放映された「それぞれの秋」がある。平凡なサラリーマン家庭が舞台で、両親、兄、妹がいる大学生の次男の視線で物語が進む。家族の心はばらばらだけれど、さまざまな出来事を経るなかで、家族の絆などに気付かされる内容だったと記憶する◆次男を演じたのは、ほとんど無名だった小倉一郎さん。脚本は昨年他界された山田太一さん。「このドラマに出たことで、多くの方に名前を知ってもらうことができ、わたしにとっては記念すべき作品となりました」(『小倉一郎のゆるりと楽しむ俳句入門』日本実業出版社)という◆その後、山田さん脚本の舞台を前に、病を得て緊急入院した。チャンスを逃した悔しさと、関係者に迷惑をかけた思いを抱いて伏せっていると、山田さんから励ます手紙が届いた。「何度も読み返し、そのたびに、熱いものがこみ上げてきました」◆山田さんのキャスティングは「なんで、オレのことがわかるんだろう?」と脚本を渡されて驚くほど演じる役の人物像が俳優と似ていたそうだ。次男は気の弱い設定。手紙は「大切に大切に」しているそうだ。