連載・特集

2024.9.30 みすず野

 キノコの採れる場所は、例え親子でも教えないとよく聞く。雑キノコと呼ばれるハナイグチあたりは珍しくないが、それでも確実に採れる場所を知っているのと知らないのでは大きな違いがある◆山を歩いて自然がもたらす恵みをいただくという楽しみに興味がなく、キノコ採りも関心がなかったが、数年前に偶然雑キノコがまとまって採れてから、時々山に入るようになった◆「西日のあたった台所の板敷に、五、六本の松茸が裸のままでころがっている。その一つを取り上げてみると、この菌特有の高い香気がひえびえと手のひらにしみとおるようだ」(『艸木虫魚』薄田泣菫著、岩波文庫)。こんな光景を一度作ってみたい◆親戚のお年寄りは、マツタケ採りが得意で、毎年何本も採ってはお裾分けしてくれた。鉢伏山や高ボッチのどこかが舞台になっていたようだ。いつの間にか90歳を超え昨年亡くなった。教えてくれなかっただろうとは思うものの、一度その場所を聞いてみたかった。店頭のマツタケは今年は豊作らしいが、それでも簡単に口に入る値段ではない。同じ秋の味覚で、こちらも豊漁だというサンマを頂くことにしよう。