連載・特集

2024.9.25 みすず野

 朝の風の冷たさに、昨日は長袖を着て出勤した。厳しかった暑さもこのあたりで終わりかなとほっとした。夏の終わりは寂しい思いも伴うが、今年はそんな気分になれない◆夏の間、何度も食卓に上った冷ややっこは、涼しい風と共に湯豆腐に交代する。季節に伴うこうした移り変わりが、ささやかな暮らしのなかでは楽しい。江戸時代の食品の中で、豆腐ほど万人に愛されたものはないと、江戸風俗研究家だった杉浦日向子さんは説く(『うつくしく、やさしく、おろかなり―私の惚れた「江戸」』筑摩書房)◆「長屋の住人から、お城の殿様まで、膳に豆腐の上がらぬ日はないほど、常食されて」いた。江戸中期以降、町人の娘が「行儀見習い」として大奥に勤めることがあり、嫁入りのはくになった。採用試験のひとつに豆腐をさいの目に切る実技試験があり、切った豆腐を水を張ったおけに放って慎重にチェックした。練習台になった豆腐は数知れず。家族は「細かくないやつが食べたい」と嘆いたかもしれない◆「まめ(達者)で四角く(真面目で)やわらかく(温厚で)また老若に憎まれもせず」。隠元禅師は豆腐をこう詠んだという。