連載・特集

2024.9.11 みすず野

 食卓に焼き魚や魚の煮付けがのる機会が、子供の頃より少なくなった。刺し身や、煮たり焼いたりした切り身では出てくる。その姿のまま登場するのはサンマとアジ、アユくらいだろうか。それだって年に何回という程度。イワシなどはまずない◆「昔の人は、やっぱり魚の食べかたがうまかった」と、作家の神吉拓郎さんは『食べ物芳名録』(新潮社)で書いた。遊びに来た知り合いのおじいさんに、好物のアジの干物で酒を出す◆感心したのは、その食べっぷり。皿の上に残ったのは「あの硬い鱗の部分と、シッポだけである。それが綺麗に、食べた魚の数だけ並んでいる。頭も中骨も、目玉も残らない。実に清々しいばかりの眺めで、魚というものは、こういうふうに食べたいもんだと、ひそかに舌を捲いた」と記す◆これに比べると「われわれは、どうもひどく堕落した」。魚の食べ方といっても「そこには喰う人の品格も人生も、巧まずして現れるように思われる」ともいう。先日の「ヤングらんど」はフランス料理と焼き魚、どちらを上手に食べたらかっこいいかという質問。ほぼ半々だったのには驚いた。魚の食べ方を練習しよう。