2024.8.31 みすず野
松本市美術館が「橋本雅邦と幻の四天王」と題する展覧会を催したのは、もう9年前。明治期の日本画壇の重鎮で、教育面でも大きな功績を残した橋本雅邦。その門下の西郷孤月、横山大観、下村観山、菱田春草の計5人の作品が会場を彩った◆「幻の四天王」のうちでも松本出身の孤月は、とりわけ将来を嘱望されていたのだろう。雅邦の娘と結婚した。だが現在、大観らと比べ、知名度の低さは否めない。それは結婚生活が1年ほどしか続かず離縁し、大正元(1912)年に38歳の若さで病死するまでの約10年間、中央画壇から離れ、放浪のなかでの作品制作を強いられたことが関係しているのかもしれない◆同展覧会の図録に「残された孤月の作品はどこか寂しく、それでいて見る者を惹きつけてやまない魅力があります」と記される。図録に載る月夜に飛ぶ鳥が描かれた「月下飛鷺」という作品を眺めていると、その通りだなと思う◆なぜ、そんなに惹きつけられるのか。類いまれな画才によるのは間違いない。加えて、人生の栄光も悲哀も味わった者だけが得られる何かが絵ににじみ出ているからではなかろうか。きょう孤月忌。