2024.8.30 みすず野
ソバ畑が一面白い花で埋め尽くされる季節を迎えている。青空の下に広がる真っ白な布を広げたような光景が見られるのは、ソバの産地に暮らす特権だ。県内には大町市の中山高原のような名所がいくつもある◆「信濃では月と仏とおらがそば」の句は、小林一茶の作だとずっと思っていた。作風がなんとなく一茶らしいし、信濃、月、仏、おらが、というこれもまた一茶が使いそうな言葉でできている。作者は一茶と同じ北信濃・柏原の中村某氏というのが有力なようだ◆「一茶の句じゃありません。そば屋のコピー(広告文)としてなら、うまい句を考えたもんです」(『俳句は下手でかまわない』結城昌治、朝日文芸文庫)。作品のできがいいので、一茶の句と思われてきたようだ◆一茶(1763~1828)は江戸時代後半の時期に「俳句という文学の一隅で古典の素養を必要とせず、誰にでも作れ、誰にでもわかる近代俳句を作りはじめていた」(『小林一茶』長谷川櫂、河出文庫)のだと。「近代俳句に写生という方法を導入し、人々に広めたのが子規だったということになるだろう」(同)。今年の新そばを楽しみに待とう。