2024.8.23 みすず野
8月下旬だが暑さがおさまる気配はない。そんな気候は知らないというように、一足早く季節が訪れているのが缶ビール売り場。名称に「秋」を冠した商品がずらりと並ぶ。こうした商品がどれもうまいように感じるのは、ビール好きの節操のなさだろうか◆指揮者の岩城宏之さん(1932~2006)は「どこの国でも、演奏会のあとに、パーティーがある。たいていはブラック・タイ、つまりタキシードの元貴族や今成金どもが」「終わったばかりの音楽会について、てんでピントはずれな会話を優雅におやりになっていらっしゃる」と皮肉たっぷりに書く(『棒ふりの休日』文藝春秋)◆シャンパン・グラスの乾杯の音、葉巻の煙。こういう集まりでも指揮者と独奏者は堂々とビールを要求できるという。「汗だらけで夢中になって演奏してきた人間」は「満座の中で、尊敬のまなざしを一身にあびて、ビールをガブガブ、品なくやるのである」と◆「生まれて初めてヨーロッパのオーケストラを指揮した直後の」ビールのうまさは忘れられないと記す。昭和37(1962)年のこと。文章も豊かな味とこく、香りが満ち満ちている。