連載・特集

2024.8.15 みすず野

 「政治のなかでは失言に一番関心がある。といふよりもむしろ、政治にあまり関心がないくせに、失言はおもしろがる」と、作家の丸谷才一さんはエッセー「昭和失言史」に書いた(『青い雨傘』文藝春秋)◆戦後は、大したものがないといい、「バカヤロー解散」に追い込まれた吉田茂の失言は、大政治家にふさわしくなく「ちっとも面白くない」という。失言ではないが、総選挙があり選挙区の高知県で真冬にはりまや橋で演説をした。オーバーを着たまま◆「吉田、オーバーをぬげ。ぬがないと票をもらえないぞ」とヤジが飛んだ。時の首相は「何を!」とにらみつけてから「ガイトウを着たままでやるからガイトウ演説なのであります」とやり返し、全員爆笑したと◆岸田文雄首相が昨日、来月の自民党総裁選に出馬しないと表明した。党の派閥の政治資金パーティーに関連した政治とカネの問題などで、内閣支持率が低迷を続けていた。その記者会見は、一言一言確かめるように言葉をつなぐいつもの話し方。失言はしないだろうが、内に秘めた情熱や思いが伝わりにくいような。大言壮語を繰り返せばいいというものでもないのだが。