連載・特集

2024.8.11 みすず野

 自宅近くに一年中、風鈴の音がするお宅がある。季節を問わず、耳に心地よいが、やはり夏は格別だ。透き通る軽やかな響きは爽やかな涼を演出してくれる。優しい音色を聞いていると、自然と気持ちが和む◆『日本大百科全書』(小学館)によると、古く中国の書に見え、鉄馬、簷馬、風琴、風鐸、風箏などの名がある。日本では室町時代には家具として普及していた、と説明される。江戸時代以降、風鈴売りは虫売りなどと並んで夏の風物詩として親しまれて、俳諧では風鐸とともに夏の季語、とも◆『よくわかる俳句歳時記』石寒太編(ナツメ社)に例句が載る。「風鈴の一つ買はれて音淋し」島村元。解説で、句の舞台は縁日の夜店か、風鈴売りの屋台。買われた風鈴が、チリリンとひそやかな音をたてた。「その音色を淋しいと感じた作者。風鈴の音は、聞く人の心を鏡のように映し出します」。何か悲しいことがあったのだろうか◆近年は、風鈴の音だけで涼むには厳しい暑さの時代になった。酷暑をしのぐのにエアコンは必需品だ。それでも日本人が夏のお供に愛してきた風鈴も大切に残していきたい。ゆとりを持つためにも。