連載・特集

2024.6.12 みすず野

 今度の日曜は「父の日」。5月の「母の日」に比べて、ぱっとしないと思うのはひがみだろうか。「母の日の袋物屋をのぞきけり」は俳人としても知られた落語家・入船亭扇橋さんの句。父の日の句が思い浮かばない◆国文学者・池田弥三郎さん(1914~82)は、落語家・古今亭志ん朝さん(1938~2001)との対談で、テレビで聞いた志ん朝さんの古典落語「火事息子」のやりとりに「お父さん」という言葉が出てきたがあれはおかしいと指摘する(『世の中ついでに生きてたい』河出書房新社)◆「お父さんて言葉はね、明治33年に出来た言葉なんだ」という。「文部省が、初めて国定教科書を作ったとき、子供が父親や母親を呼ぶ呼称を統一する必要に迫られて、『お父さん』『お母さん』て言葉を作った」と◆志ん朝さんは「火焔太鼓」のオチの「おじゃんになる」を挙げる。半鐘の「ジャン」という音にかけてあるが、半鐘は見かけなくなり「おじゃんになる」という言葉も使わなくなったと。池田さんは親の呼び方で「もっとも、学習院だけは、われわれは庶民じゃねえんだってのか『お父さま』『お母さま』を使ったんだけどね(笑)」と締めている。