連載・特集

2024.5.21 みすず野

 高校に入学したら、山岳部と写真部に入ろうと決めていた。県内の有名な山に登り、雄大な山々の写真を撮る計画を立てていた。入学後、そう話すと、母はそれまで見たことのないけんまくで「遭難したらどうするのか」と怒り続けた。2、3日しても治まらず、あまりの激しさに仕方なく諦めた◆一番仲のよかった友達は山岳部と美術部に入った。連休はどこそこの山へ行くなどと聞くと、部活動の様子が楽しそうで、うらやましかった。女子部員も大勢いて仲良くやっている。それを横目で見ながら、写真の技術書を読み、安いカメラを手に一人であちこち歩いていた◆最近この頃のことをよく思い出す。もし反対したのが父だったら、同じように諦めただろうか。反発して自分の意志を通したような気がする。母の怒りには、説得が通用しないようなあらがいがたい強さがあった◆松本は三つの「ガクト」を掲げている。そのうちの岳都は、この経過からずっと苦手科目になったままだ。山の写真は数え切れないほど目にし、山をテーマにした文章も読んできた。でも、山に登ることのあれこれやその体験は残念ながら書けないままだ。