連載・特集

2024.4.3 みすず野

 「街角でふと耳にした会話、お店の看板、子どもの主張、教室の机の落書き、家族の寝言など、たまたま出会った言葉の断片が、作品として書かれた詩よりもリアルな詩に見えてくることがあります」という言葉を集めた『彗星交叉点』(穂村弘著、筑摩書房)は、どのページを開いても楽しい◆インターネットで、買ったばかりの傘をなくしてしまったという友人の書き込みが目に入る。お気に入りだったのにと悲しみ、探したくてもどこに忘れたか見当がつかない。嘆きの言葉が続いた後、彼女は「傘なんて街にくれてやらあ!」◆歌人の著者は「思わず笑ってしまう」。街も目を白黒させてしまうだろう。「ここには、捨て鉢な面白さというか、やけくその魅力がある。乱暴な言葉の裏側に、奇妙な健気さめいたものも感じられる」と◆昨年末、書店で、かなり高齢な夫妻が日記帳を選んでいた。妻が何冊か手に取り、縦書き、横書きなどの説明を夫にしている。その度に夫はちらりと見て「だめ」を繰り返す。そして一言「10年連用日記でなければだめだ」。10年目には、100歳近くになるだろう。その言葉に思わず大きくうなずいた。

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