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2024.3.8みすず野

 小欄の文章はわずかな長さだが間違いがあってはいけないと、何度も読み返す。引用文も一字一句確認してから出稿する。それなのに印刷が近づいたころ、同僚から問い合わせや間違いの指摘が入る。感謝するばかりだが、なぜ誤りに気付かなかったのかと自分に腹が立つ◆棋士の内藤國雄さんは、当時憧れの棋士であり、没後「名誉十段」を贈られた塚田正夫と一献傾けた。遅くなり塚田は妻に迎えに来るよう電話する。ところが、やってきた妻を塚田は追い返してしまう。それを見て名人になるほどの人はすることが違うと感心する◆それでも内藤さんは、あの時なぜ妻を呼び出しておきながら帰したのかという思いが、ずっと心にひっかかっていた。当時の塚田と同じような年になったいま、ようやくそれがわかる◆「あれはただの判断力の喪失にすぎないということ。将棋でいえば〝ポカ〟の1手であったということ」(『将棋エッセイコレクション』「塚田名人のポカ」後藤元気編、ちくま文庫)だと。酩酊によるポカを好手と勘違いしていたら、いつか同じ轍を踏む。「気がついてよかった」と。ポカをしないよう注意しているのだけれど。

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