連載・特集

2024.1.18 みすず野

 遠近両用眼鏡をかけていて、小さな文字が見えにくいときは、眼鏡をはずして見れば判読できた。それが老眼が進んだらしく、裸眼でも読めない文字が増えてきた。ずいぶん年下の人たちから届いた年賀状は、住所や氏名の文字が小さすぎてどうしても読めなかった◆仕方なく虫眼鏡を買った。拡大鏡、ルーペ、天眼鏡。呼び方はさまざまだが、レンズが大きい方が今のところ使いやすい。携帯用も一つ用意した。薬や食品などの説明書きは、読まれたくないのだろうと勘ぐりたくなるような細かい字で書かれたものもある◆女優でエッセイストとしても活躍された高峰秀子さんは、夫の映画監督、脚本家・松山善三さんの口述筆記をしていた。辞書の字が日ごとに見えにくくなる。あるとき思いついて、電話帳のそばにあるお手伝いさんの虫眼鏡を辞書の上にかざしてみた◆「以来、虫めがねは私の必需品の一つになったというわけである。これさえあれば、私はバアサマになっても主人の口述筆記はスイスイだ、とうれしい」(『コットンが好き』文春文庫)と。虫眼鏡という力強い味方を得たがこれで小欄がスイスイ書けるわけではない。

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