連載・特集

2023.12.22 みすず野

 金沢大学教授などを務め、令和2年に76歳で亡くなった中国文学者・井波律子さんの未発表エッセーや講演記録などをまとめた『中国文学逍遙』(全3巻、本の泉社)が今秋刊行された。その中に「ザ・バンド」という短いエッセーがある◆ザ・バンドはアメリカのロックバンド。1976年に「ラスト・ワルツ」と名付けたライブを最後に活動を停止した。ライブを録画した映画も公開された。井波さんは「メンバーは私と同世代であり、彼らが元気でロックンロールしつづけてくれると、私も無性にうれしくなり、力がわいてくるのだ」と書く◆昨年、井波さんの『ラスト・ワルツ』(岩波書店)というエッセー集も出た。そこではコンサートのDVDなどを見るたびに、60年代末から70年代前半の激動が沈静化され「『終わりの始まり』だと思い決する人が、私も含めて多かったのかもしれない」と振り返る◆「ラスト・ワルツ」の国内初のブルーレイはきょう発売だ。井波さんはこのコンサートが「終焉の物語であると同時に、再生の物語なのである」と記している。当時、映画を見て、ライブCDも買った。井波さんはどこで見るだろう。