連載・特集

2023.12.2みすず野

 「お金を取り忘れていますよ」。スーパーストアで買い物をして支払いを済ませ、購入した物を持参の手提げ袋に入れていると、50~60代の男性に声を掛けられた。精算機で支払いを終えた後、釣り銭の一部を取り残したらしい◆「黙ってもらっちゃおうかとも思ったんですけどね」。声を掛けてくれた男性は、精算機で自分の支払いをしながら冗談を言って1000円札を渡してくれた。毎月の小遣いのやりくりからして1000円は大きいし、何よりそのように声を掛けてくれた男性の気持ちがうれしかった◆お互いさまというよりは、忘れる方が悪いと世知辛い考えが横行しているように感じる昨今にあり、少し大げさだが、心が温まった。昔のことを美化してしまいがちなことの一つかもしれないが、筆者が子どものころは、子どもの模範となるこのような大人が多かったような気がする◆男性に「魔が差しがちな中、本当にありがとうございました」と頭を下げた。男性は照れくさそうにいいよ、いいよと言わんばかりに笑顔で手を振った。師走を迎え、何かと忙しくなり気持ちに余裕もなくなってくるが、お互いさまの精神は持ち続けたい。