連載・特集

2023.10.6 みすず野

 青森県の岩木山の周りを車で巡っていた俳優・石丸謙二郎さんはプレハブ建てのそば屋を見つけ、ウインカーを出す。外観にお金をかけない店と見た。壁の貼り紙に〈もり蕎麦600円〉。うまかった。本の題名は訳あって後述する◆信州・松本そば祭りがあすから松本城公園で。第1回は平成16(2004)年だった。4日間の来場者数は―台風接近で1日休止を挟んだにもかかわらず―約22万人、大名町通りがこれほど人であふれるのは「記憶にない」と当時の記事にある。30年まで15回を重ねた◆そば好きはなぜこうも多いのか。年越しや引っ越し、婚礼にと親しまれてきた歴史。粋な気分が味わえる名代から、駅の立ち食いまでと間口の広さ。通を気取るやかましいうんちく。自分でも打ちたくなる奥深さ...。一番の理由は土地ごとのそばが至る所にあり、味と技が受け継がれている点ではなかろうか◆石丸さんは―〈脳を直撃する〉ステーキやピザと異なって、そばのうまさが〈脳に届く〉までには長い年月がかかる―と書いている。皆さんを会場へとお誘いするのに題名がぴったり。やはり『蕎麦は食ってみなけりゃ分からない』