連載・特集

2023.10.4 みすず野

 落語「そば清」の清兵衛さんも草の代わりに大根おろしを食べていたら、大食いの賭けに勝ったかもしれない。スタイリストの高橋みどりさんは一番の好物に、のりと大根おろしを挙げる(『くいしんぼう』ちくま文庫)◆胃と口の中がさっぱりする。今の時季なら他でもないサンマの塩焼きだろう。片岡義男さんの短編で、男がレモンの搾り汁を少しだけなめ、冷や酒を口に運びながら〈大根おろしも、この酒によく合う〉と言う(『くわえ煙草とカレーライス』河出書房新社)。居酒屋で注文したくなった◆そばの薬味にも欠かせない。7~9日に松本城公園で信州・松本そば祭りが開かれる。出展団体のそばが紙面に載っていた。越前おろしそば(福井県)や会津高遠冷かけそば(福島県)は、大根おろしが―脇役ではなく―準主役と言っていい。会場で味わうのが楽しみだ◆瀬戸内寂聴さんの使い道は面白い(新潮社刊『全集』第19巻)。講演旅行で一緒の今東光はバーのマダムに胸をかまれ、痕が〝キスマーク〟となって大弱り。そこへ松本清張が〈大根おろしをはると、消えるよ〉と。担いだのであって、当然そんな効果はない。

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