連載・特集

2023.10.25 みすず野

 秋晴れの真っ青な空を見上げると、どこでもいい、ここではない場所へ出かけたくなる。空気は澄んで風がやさしい。日差しはもう暑くないし、まだ寒さに体を縮こめることもない。できれば1、2泊してみたい。地図を広げてみようか◆先頃刊行された松本市里山辺の松本民芸館創設者で民芸作家の丸山太郎(1909~85)のエッセー集『旅の鞄』(書肆秋櫻舎)はそんな思いを満たしてくれる41編が収められている◆書名と同じ「旅の鞄」と題した1編は「旅は出来るだけ軽装で荷物も少なく軽いのが一番よいと心得ている」と始まる。不便でも多くは一人旅。「長野へ行くのも旅であり、北海道や沖縄へ行くのも旅である」という構えだ。持ち物は鞄一つ。海外へ行くにも同様で「あの仰々しい車のついた鞄を持った事がない」◆中には何十年も使うぼろぼろになって裏打ちされた地図1枚、洗面道具一式、折り畳傘など必掲物と細々としたものが入っている。「もう間もなく、又この鞄を肩に出かけようと考えている。鞄の中にはこの道具類の外に、まだ旅の限りない夢が一杯に詰っている」と結ぶ。昭和54(1979)年に書かれた。

連載・特集

もっと見る