連載・特集

2023.8.27 みすず野

 この時季になると手に取りたくなる1冊がある。『僕のいる絵葉書』(永六輔著、中央公論社)だ。正方形に近い縦長で、著者が訪ねた海外も含め47カ所をカラー写真とともに紹介している。旅に憧れた日々を思い出す◆1年間続いた週刊誌の連載をまとめた。毎回「前略」で始まるタイトルが付いている。昭和50(1975)年の発行。写真は大石芳野さんだ。著者は40代になったばかり。さっそうとした姿で写真に収まっている◆その中に「前略小さな美術館にやってきました」で始まる回がある。写真はツタに覆われた緑一色の碌山美術館。松本から穂高までの地図がある。「松本城の大手門に通じる道が中心街で、ここには十メートルおきに書店が並んで、信州人の読書好き、理屈っぽさを裏づけます」◆松本の街は「アルプスや美ヶ原への通過地点で街の中は観光客が目立たなかったものですが、今は民芸ブーム、城下町ブームとあって横町を歩く人が増えました」と紹介されている。半世紀近く前の表情だ。うれしいのは、著者が気に入って紹介しているレストランや旅館、漬物店など「この街の古い店」がいまも全て健在なことだ。