連載・特集

2023.8.18 みすず野

 賄賂と聞いて真っ先に思い浮かぶのは老中・田沼意次。徳川10代家治の下で権勢を振るう。授業で「田沼時代」は悪政の代名詞とされ、次の老中・松平定信が田沼派を一掃して「寛政の改革」に乗り出す―図式だった◆もしも先生が「時代を見通した改革の手腕を評価する歴史家もいる」とか、山本周五郎の『栄花物語』を読めとか教えてくれたら印象も変わっていただろう。ぼんやり聴いていたから耳に入らなかったのかもしれない。小説や評伝をこのお盆休みに読んだ。30年近く前の笹沢左保著『徳川幕閣盛衰記―失脚』も面白かった◆大名諸家の思惑も加わり、激しい主導権争いである。相次ぐ天災と凶作も意次の支持率を下げた。笹沢さんが挙げる〈収賄四人衆―他に酒井忠清と柳沢吉保、大岡忠光〉で、意次が受け取った額は群を抜いている。米や金銀、高価な品...財産は現代の5000億円に達していたかもと◆閑話休題。当時の落首に「役人の子はにぎにぎをよく覚え」とはうまく言ったもので、令和の世にも「政治とカネ」を巡る疑惑が後を絶たない。うやむや裏に幕引きを図るようなら、国民の政治不信は深まるばかりだ。