連載・特集

2023.08.07 みすず野

 岡本綺堂の伝奇小説集を借りてきた。夏だから怪談―というわけではなかったのだ。自転車の籠に乗せられた大きな1個のスイカをたまたま見掛け、図書館の蔵書検索で引っかかったのが―綺堂だった◆〈西瓜〉は―怪談が苦手な読者も多分おられるから、筋は割愛しよう―めちゃめちゃ怖い。ぞっとした。なるほど夏にぴったりだと続いて〈木曽の旅人〉も読んだ。これまた背筋が凍りつく。2編とも幽霊やお化けは登場しない。それでも独特の文体から立ち上る恐怖と不気味さ―すっかり綺堂ファンになった◆もしも綺堂の全作品を生成AI(人工知能)に学習させたら、もっと怖い物語が生まれるのか―と想像してみる。作者が人間なら、執筆の前や途中にふと自身の経験がよみがえったり、たまたまの見聞が別の展開へのヒントになったりする―小説・脚本家に聞いてみなければ分からないけれど―かもしれない◆自転車のスイカが怪談に化け、テレビのニュースが米国映画産業のストライキを話題にしていたので、思考はAIへ飛んだ。わずか469字の拙稿でさえ、こうも偶然に左右される。AIにこの偶然がつくれるだろうか。