2023.7.12 みすず野
30年の歳月を実感してもらうために挙げると、松本城400年まつりと信州博覧会があった年である。祭典の開幕を翌週に控えた平成5(1993)年7月12日夜、日本海に浮かぶ北海道の奥尻島を激しい揺れと津波が襲った◆小社はおもいやりBOXの社告を10日付で打ち、計215の個人・団体から寄せられた救援見舞金535万円余りを8月6日に奥尻町へ届けている。行方不明者の捜索がなお続けられるなかでの爪痕の惨状や、被災者の声は現地へと飛んだ記者の目と耳に長く残り続けた◆「島を捨てるか残るか悩んでいるが、相談する身内がいない」と泣かれた。当時は救援物品を送る側の認識や配慮も浅かったようだ。古着の倉庫かと見間違うほどの衣類の山を見た―10年の節目や防災の日といった折につづられた紙面を繰る。その記者も社を去り、話題に上る機会はほとんどなくなった◆北海道南西沖地震と聞いても―いつだったっけ?まさに天災は「忘れるいとまもなく」やって来る。一つ一つを記憶のひだに刻み続けることはできないけれど、かつて郷土の善意が届けられた土地の御霊を思い、世代を超えて語り継ぎたい。