連載・特集

2023.7.1みすず野

 きょうは各地で山開き、海開きが予定されている。梅雨明けを待たずに、夏の観光シーズンが本格的に始まる。コロナ禍で低迷した夏休みの人出も、今季は盛り返しそうだ◆「軽量の金属フレームの背負子にナイロンパックを取り付け、寝袋を付けるようにしたフレームサック」を、バックパックと呼び、これを背負い「自然の中を歩き、その自然を心の中に育てる行為」をバックパッキングというのだと、『バックパッキング入門』(山と渓谷社、のちヤマケイ文庫)で著者の芦沢一洋さんは説明した◆出版されたのは昭和51(1976)年。必要な靴、テント、寝袋、衣服、カメラなどを紹介した。当時盛んに出版されたカタログ本と異なるのは『森の生活』を著したH・D・ソローや、ビート・ジェネレーションの作家、詩人らからバックパッキングの思想を読み取っていることだ◆同書を読み安物のバックパックを買い、夏休みの帰省で背負った。中身は洗濯物と本。手には、後輩に泣きつかれ、アパートでこっそり飼っていた子猫が入ったバスケットを提げた。電車の中で鳴き声を上げる。このなんとも珍妙な格好が使い初めだった。