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スギやヒノキの樹皮の食害 熊にも鹿の忌避剤有効

幹に忌避剤を点状に塗る作業(県林業総合センター提供)

 熊がヒノキやスギの樹皮をはがす林業被害を減らそうと、県林業総合センター(塩尻市片丘)は、鹿の食害防止にも使われる忌避剤の効果を検証し、有効性を確認した。熊が牙や爪で樹皮をはぐと材の変色や腐朽を招く。令和3年度の被害額は1億3600万円に上った。忌避剤を幹の下部に塗る簡便な対策だけで、皮をはぐ本数や面積を低減できる。

 同センターによると、熊は餌の少ない春~夏に樹皮をはぐ個体がおり、その下の形成層を食べる。60年かけて育てた木も、わずか6秒ほどで皮をはいでしまう。周囲の皮が7割以上はがれると枯れる可能性が高い。県内の被害額は増加傾向で、近年は鹿の被害額を上回っている。
 令和元年以降、木曽町三岳や下水内郡栄村で試験を行ってきた。鹿やカモシカによる食害の防止効果がある硫黄の忌避剤が、熊にも有効かどうか検証した。ゴム手袋をはめて剤を手に取り、木の幹(地上から30センチの高さ)の全周に点状に塗り、4カ月後に塗っていない木と比べた。
 木曽町では2年に、ヒノキ各62本で試した。忌避剤を塗らなかったヒノキは被害があった(被害率6・5%)が、塗ったヒノキに被害はなかった。一方、3年に栄村でスギに試したところ、塗った場合でも少し被害が発生した。自動撮影カメラの画像分析の結果、熊は斜面の山側から立ち上がり、忌避剤を塗っていない地上1メートルほどの高さで皮をはいでいた。このため、4年には高さ30センチの全周だけでなく、山側の地上1メートルの位置にも塗ったところ被害がより抑えられた。
 現在は幹にテープをらせん状に巻く対策が講じられているが手間が掛かり、切り倒す際はチェーンソーにからんでしまう。ネットを巻く方法もあるがコスト面で課題があった。担当したセンター育林部の研究員・柳澤賢一さん(42)は「忌避剤の塗布には特別な技術は要らず、コストも抑えられる」と利点を説明する。忌避剤は今後、市販される見通し(発売日は未定)という。

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