連載・特集

2023.6.11みすず野

 「信州でへら鮒釣場といえば、まずあげられるのが松本の美鈴湖である」と始まる「美鈴湖の釣師」は、釣り人の聖書とも呼ばれるアイザック・ウォルトン著『釣魚大全』を訳した評論家・森秀人さんが『荒野の釣師』(二見書房)に収めたエッセー◆美鈴湖は3回訪れた。3回目は6月。朝釣りをして、昼間に人と会う約束があり、さおや荷物をそのままにして隣の釣り人に頼んで市街に下った。午後4時ころ戻ると隣人は帰ってしまっていたが、さおも道具も無事だった◆「これが大都市周辺だとこうはいかない」といい、駐車中の車から道具一式盗まれた経験や、俳優の山村聡さんが、さおをまとめて盗まれた話を書く。森さんは動かない浮きをじっと見つめる。「青い空がますます青く拡がり、バスがゆっくりと高原を登っていった」。半世紀ほど前の美鈴湖だ◆ヘラブナ釣りの仕掛けを使ったコイ釣りを覚えて、十数年楽しんだ。この季節、休日は日の出前に起きて釣り場へ。さおを出す準備をしていると日が昇ってくる。風がなく、鏡のような湖面の美しさは今も忘れられない。釣り場から遠のいて久しいが、読む釣りも十分面白い。

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