連載・特集

2023.5.29みすず野

 きょうは(与謝野)晶子忌と、土曜日付の「季語って楽しい」に取り上げられていた。(橋本)多佳子忌でもある。『俳句とエッセイ』別冊号(牧羊社)は、松本の宮渕に墓がある杉田久女と並べて「ふたりの美女のものがたり」◆東京生まれの多佳子は結婚して九州の小倉に暮らした時、同じく小倉にいた9歳年長の久女から俳句の手ほどきを受けた。山口誓子の下で才能を開花させる。昭和29(1954)年に久女終焉の地、太宰府を訪ね〈菜殻火の燃ゆる見て立つ久女いたむ〉思慕の情が胸を打つ◆信州野尻湖畔に疎開していて、戦時中の作を収めた第2句集は『信濃』。〈ほととぎす夜の髪を梳きゐたりけり〉など髪をうたった句が目立つ印象だ。ジェンダーフリーの時代に叱られるかもしれないが、やはり「女流」ならではの句境だと素人ながら思う。松本や乗鞍岳、塩尻峠でも詠んだ。60年前に64歳で亡くなった◆もちろん季語になっている。髪をすく句への共感だろうか〈髪の根まで櫛の歯とほす多佳子の忌〉鈴木真砂女。文学忌歳時記で見つけた〈絨毯に蛍火ひろふ多佳子の忌〉鷹羽狩行。そういえば、ホタルの時季も近い。