連載・特集

2023.4.27 みすず野

 ♪甍の波と雲の波~と今の子どもたちも歌うだろうか。先生、いらかって何ですか?「鯉のぼり」は大正2(1913)年に発表された。作詞者不詳で、曲は「春よ来い」の弘田龍太郎が東京音楽学校在学中に作ったと伝わる(『唱歌の散歩道』)◆松本の今井辺りを車で走っていると、民家の庭で高々と泳ぐ黒・赤・青色のこいのぼりが目に入った。作家の幸田文が昭和34(1959)年の随筆に〈どんな男の子がいるのか知らないけど、しっかりやってくれえと声がかけたい気の弾みをうけた〉と書いている。同感であった◆イベントや菜の花畑、せせらぎの上で色とりどりに群れをつくる。当地では青空のほか残雪の北アルプスに映え、逆風にも負けない悠然とした姿が見る人に爽快感と元気をもたらす。土手の上で幸田が眺めたのは恐らく黒の真鯉と赤の緋鯉の2色だった。『鯉のぼり図鑑』によると昭和37年に青(と緑・だいだいの計5色)が登場し、高度経済成長やベビーブームの波にも乗って広がった◆♪屋根より高い~「こいのぼり」の発表は昭和6年。歌詞に〈おかあさん〉が出てこない理由がお分かりいただけただろう。