連載・特集

2023.3.26 みすず野

 晴れた日の日が沈んであまり時間がたっていない夕方、山際から空にかけての色がなんともいえず美しい。青いような、少し紫がかっているような、どうやってつくりだせばこういう色になるのか知りたくなる◆同じ色の空を、大学3年の春休みに毎日電車の中から見ていた。人づてにアルバイトを頼まれ、初めて帰省せずに春休みを過ごした。来年は就職しているのだから、こういう経験もいいかと考えた。生活費がかかる分は、アルバイト代で補えるだろうとも◆通ったのは3駅離れた大手建設会社の技術研究所で、ほとんどが男性の職場。半月ほど過ぎ、バンに乗って連れて行かれた都心のビル建設現場で、計測機器を取り付けるため、突然ハンマードリルを使えと言われたが、足場が悪く難しい作業で手に負えない。そのとき一人の社員が代わってくれた。それまで誰よりも無愛想な人だったので意外だった◆帰りの電車からは夕方の空が見えた。研究所で毎日複雑な図面を見て寡黙に働いている人が、建設現場でさりげなく仕事をこなした様子が、映像のようによみがえった。あんな社会人になりたいと。さあ、そうなれただろうか。