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渋滞 暮らしや経済に影 まつもと道路交通考④ノロノロ運転常態化

国道19号の渋滞を避ける抜け道となっている松本市井川城3の市道。車のすれ違いがぎりぎりの場所もあり、狭い路肩を歩くのは怖い

 松本地域の道路交通の課題は事故率の高さだけではない。松本市街地を中心に車の渋滞が常態化しており、住民生活に影を落としている。深刻な渋滞を放置すれば交通安全が損なわれるだけでなく、産業振興や物流、観光客の呼び込みにも逆風となりかねない。
 中核市.松本の市街地を南北に貫く国道19号は全線が片側1車線で、曜日や時間を問わず渋滞が激しい。国土交通省による令和3年調査(道路交通センサス)では同市渚交差点付近は平日朝夕(午前7~9時と午後5~7時)の車の平均時速が上り10.6キロ、下り8.8キロでジョギング程度のスピードだった。同市鎌田付近も朝夕が上り10.3キロ、下り11.4キロで、昼間(午前9時~午後5時)も上り12.3キロ、下り15.4キロとノロノロ運転が終日続いている。
 どの都市でも朝夕の幹線道路は混雑するが、長野市街地にある荒木交差点付近の国道117号は朝夕が上り25.3キロ、下り14.3キロ、昼間は上り29.9キロ、下り17.9キロ、甲府市街地でも国母交差点付近の国道20号は朝夕が上り13.8キロ、下り34.2キロ、昼間は上り20.0キロ、下り36.9キロで、松本市の渋滞の深刻さが際立つ。117号も20号も調査地点は4車線(片側2車線)で、松本地域でも4車線化された塩尻市広丘吉田の19号は朝夕が上り27.6キロ、下り32.5キロ、昼間は上り30.1キロ、下り35.6キロとスムーズだ。
 交通渋滞の弊害は、時間の浪費による経済損失として住民生活に打撃をもたらすことだ。松本市と同じ城下町である熊本市は、市中心部の車の速度が全国の政令指定都市の中で最も遅いと分析し、朝夕の渋滞による経済損失が市民1人当たり年間24万円に上るという調査結果を令和3年にまとめた。渋滞によって市民の移動時間が長くなり、仕事や家事、文化活動などの機会を奪われた損失を金銭評価した結果で、道路整備の必要性を訴える根拠にもなっている。
 交通安全の推進にとっても渋滞は大きな障害だ。混雑が常態化している19号を通ると目的地までの時間が読めないため、松本市内では先を急ぐドライバーがそれぞれの「裏道」を運転することが多い。すれ違いにも気を使う狭い生活道路に車が流れ込み、子供や高齢者を中心とする歩行者の脇をすり抜ける。同市井川城の穴田川沿いの市道などはその典型例だろう。
 市民タイムスの調べでは、長野県と隣接県の中核市(人口20万人以上)12都市で主要国道(号数が最も小さい国道、バイパス含む)が片側1車線のままなのは松本市だけだ。19号以外の幹線道路も右折レーンなしの交差点が多く、松本地域の渋滞問題は根深い。
 バスなどの公共交通利用を普及させてマイカーの台数を減らし、渋滞を抑制しようとする施策はもちろん大切だ。ただ、基幹インフラである道路網の整備が地域経済や住民生活の発展に不可欠だという認識を地域全体で共有し、たとえ小さな改良でも地道に取り組んで行くことが、交通安全推進のためにも求められている。