連載・特集

2025.1.10 みすず野

 冬の日が差し込む日曜日、遅い朝食を取ってから小説を読む。彼女は新聞を広げている。老眼鏡をかけ、眉間にしわを寄せている。その顔には若い頃の面影がある。「新聞を読むときに額にしわをよせるのやめた方が良いよ。いかにも年寄りって感じになってる」◆「彼女は新聞から顔を上げ、まじまじと私を見るとこう言った。『あなただって、本を読んでるとき、しわよせて、じいさん顔になってる。そんなこと私は言わないだけよ』」。『冬の本』(夏葉社)に収められたエッセイスト・上原隆さんの2ページの作品「本を閉じると」だ◆窓の外では雪が舞っている。大雪についての気象情報がラジオから何度も流れる。道路が渋滞しなければいいけれど、と思いながら、いつもより早く家を出ようと準備する◆冬越しのため、年末に部屋に入れた鉢植えの隅から、緑色の芽が出て3センチほどに。見たことがある草になった。陽気のいい頃なら迷わず引き抜いてしまう。窓外の雪を背に見るとそれはできない。何を勘違いしたのか寒中に芽を出した。エッセーの男女がこれを見る時、額にしわを寄せるだろうか。目尻にはきっと笑顔のしわが寄る。