連載・特集

2024.12.11 みすず野

 ギョーザは人気食品で「ギョーザライス」のようなメニューもある。本場の中国では最も庶民的な主食で、こういうメニューはあり得ないと『龍の世界』(池上正治著、講談社学術文庫)で知った。成人男子だと一人20~30個が平均だとか◆好んで食べるのは北方で、黄河の一帯とその北側がギョーザ文化圏。このうち著者は東北の瀋陽と西北の西安でギョーザの宴会料理の最後に龍をあしらった鍋を見た。燃料に点火すると鍋が火に包まれ薄味のスープの中で豆粒ほどの真珠ギョーザが踊る◆小さなおわんにギョーザを入れるウエートレスの口上は、二つならめでたいことが重なる、四つなら四方八方がうまくいくなどいくつでも吉祥。龍は皇帝のシンボル。それにあやかった鍋にして庶民の味を面白おかしく賞味する。これぞ「中華の食文化の極致」と。同書は中国人がいかに龍が好きかを詳述する◆通った大学には「龍が歩き出す時、右足から出るか左足から出るか」をテーマに卒論を書いた強者がいたという伝説があった。誰も確かめなかったのは、そのテーマが醸し出す中国文化の奥深さのようなものを感じていたからかもしれない。