連載・特集

2024.10.17 みすず野

 「家族や愛する人を亡くしたときに食べるといい。心を癒やしてくれる働きがある」。松本市内で開かれた欧州の風習や伝統的な菓子の作り方を学ぶ講座で、北アイルランド出身の講師が、作った菓子について説明した◆材料は小麦粉や卵、砂糖、バター、牛乳、ナツメグ、レーズンなど。特段変わったものはなく、菓子作りによく使われる品々だ。作り方も小麦粉と卵、バターをまず混ぜて、よくこねて生地を作り...。どこででも見られる手順で作業が進み、最後は焼き上げて完成した◆心を癒やしてくれる働きが生まれるのは特別な材料や作り方でなく、信じる心だと分かった。その菓子を食べると、心が癒やされると信じる心。講師の出身地では、きっと古くから継承されていて、幼いころ思考に植え付けられるのだろう。大切な人を亡くしたとき、その思考にどれほど救われるか◆家族や愛する人を亡くしたときの悲しみは深い。しばらく立ち直れないこともある。講座の参加者たちは、そのようなときが訪れた際、この日に教わった菓子を作って食べ、心を癒やすといい。筆者も材料や作り方を思い出して、菓子を食べたいと思う。