連載・特集

2024.10.25 みすず野

 おじいさんが畑で育てていたカブが、驚くほど大きくなってしまった。一人では引き抜けなくて、おばあさんを呼ぶが手応えなし。孫が応援にくるが効果がない。犬と猫が加わるがびくともしない。最後に加勢したネズミが引っ張って、カブがようやく抜ける◆「大きなカブ」という子どもにも、かつて子どもだった大人にも親しまれているこの話は、ロシア民話なのだと、ロシア語通訳として活躍した米原万里さんの『旅行者の朝食』(文春文庫)で知った◆米原さんがこの話に引かれるのは、ネズミの微力にたとえられた、取るに足らないと思われている力が「ある日、巨大な力どうしのバランスを崩す最後の一押しという劇的な役割を演じてしまう。そういう人生の皮肉な真実を、ものの見事に言い当てているからではないだろうか」という◆「たとえば、選挙のとき、わずか数票差で当選したり、落選したりする候補者を見るたびに」この話を思い出してしまうと。「絶対的と思われていたが、実は相当無理があったソビエト体制」が崩壊したプロセスなどは、この話の「シナリオをなぞっているようにも思えてくる」と語っている。