連載・特集

2024.9.16 みすず野

 詩人の草野心平は、昭和3(1928)年、詩集『第百階級』を発刊した。カエルの詩45編を収録。『詩の中の風景 くらしの中によみがえる』(石垣りん著、中公文庫)によると「知り合いの詩人が素人印刷して百部こしらえた」という◆そのうちの1編「秋の夜の会話」はこうだ。「さむいね。/ああさむいね。/虫がないてるね。/ああ虫がないてるね。/もうすぐ土の中だね。/土の中はいやだね。/痩せたね。/君もずゐぶん痩せたね。/どこがこんなに切ないんだらうね。/腹だらうかね。/腹とったら死ぬだらうね。/死にたくはないね。/さむいね。/ああ虫がないてるね。」◆石垣さんはこの詩を「心平さんという名の蛙がうたった詩、と思っています」といい蛙が「腹とったら死ぬだろうね」とつぶやけば、私が「死にたくはないね」と答えている。「その切なさこそいのちと不可分なものならば、痩せても枯れても、腹を抱えて生きるよりほか仕方がない」と◆「そうなんですね?蛙さん、私も両手両足ふんばって」東京の片隅に住んでいると書く。秋がくるたびに思い出す詩だ。フォーク歌手の高田渡さんは曲を付けて歌った。