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木曽音楽祭23日開幕 演奏家・住民"共演"の半世紀

主会場となる木曽文化公園文化ホールで本番に向けてリハーサルに臨む演奏家(21日午前10時ごろ)

 木曽町の木曽文化公園文化ホールを主会場に夏の終わりに催される「木曽音楽祭」は今年、23~25日に開かれ、50回の節目を迎える。国内外の第一線で活躍する演奏家が集い、自ら選んだ珍しい曲を1週間の"合宿"を通じて完成させ、披露する室内楽の祭典だ。演奏家と地元の町、そして住民が手を携え、山深い地に温かみのある音楽祭を半世紀にわたって実現してきた。ただ、取り巻く環境は草創期とは変わり、少子高齢化・人口減少などに対応した持続可能な在り方を考える時に来ている。

 昭和50(1975)年、弦楽器製作者・故飯田裕さんら町内のクラシック音楽愛好家有志が著名なビオラ奏者を招いたレッスンと演奏会の形で始めたとされる。「木曽福島を音楽の町に」との言葉を掲げて、当初は"国際音楽祭"として海外の演奏家を招いたが、回を重ねるごとに規模が膨らみ、10回目で財政難に陥った。
 その直後、旧木曽福島町が継続へ全面支援を決断し、名称も今の「木曽音楽祭」になった。当時町長だった故中村英之さんの妻・宏子さん(80)=福島=は「ここまでよく続いた」と語る。「夏に避暑客を呼び寄せたい思いもあったのでは」と思いやる。
 平成17(2005)年の町村合併後も支援は引き継がれた。近年の来場者数は毎年延べ約1600人で、県外者が8割を占める。
  「手作りの音楽祭」をうたい、演奏家のホームステイや食事提供といった町民のおもてなしが半世紀の歩みを支えた。
 24年前から演奏家計4組を自宅で受け入れてきた長瀬新五さん(75)=福島=は「演奏家に木曽を気に入ってもらうきっかけにもなっている」と話す。
 地元の女性が中心となってきた食事ボランティアは演奏家の滞在中、献立を考え、食材の買い出しに出かけ、調理までを一手に引き受ける。地元野菜を多く使った温かな食事は好評だ。30回以上出演するチェロ奏者・山崎伸子さん(68)は「食事を楽しみに来ている。本当においしい」とほほ笑む。
 40年以上携わった武居敏江さん(83)=同=は「先輩の努力あってこそ。立場を超えボランティアと演奏家が築いたつながりは町の宝の一つ」と語る。
 木曽町の人口は年々減少し、今年1万人を割り込んだ。運営を支えてきた人も次第に年を重ねる。従来のように町民の熱意に頼るのは難しい。そこで企業など新たな力を借りる動きが出てきた。
 食事ボランティアの負担軽減を図り、昨年から日義の飲食店・だべりばキッチンが営業時間外に対応して朝食作りを担う。店を営む企業・グラスエッジの石黒力也代表(42)は「演奏家の皆さんは影響力がある。木曽の魅力を広めて、また来てもらえれば」と願う。
 演奏家の滞在に利用してきた空き別荘の老朽化なども進み、宿泊事業者が関わり始めた。新開の丸中山荘を営む中村秀和さん(48)は「半世紀も続いた催し。少しでも協力できれば」と語る。
 実行委の永井正宏副会長(92)は「同じやり方では続かない。節目に考えなければ」と話す。実行委事務局の町教育委員会は「答えは出ていないが、持続可能な方向性を模索している」とする。