連載・特集

2024.8.8 みすず野

 戦前と戦後の違いのようなことをあれこれ調べていたら、大きな相違点として鍵の存在があった。家に入るときには鍵を使って玄関を開ける。戦前の玄関は、家の内側からねじを締める錠が付いていた。これは記憶にある。子どもの頃は、あちこちにこの形式が残っていた。外から解錠できない。家の中に誰かがいることが前提だ◆『住まい方の演出』(渡辺武信著、中公新書)は「戦前の家族観では、亭主の帰宅がいくら遅くなっても妻は玄関の戸を開けて出迎えるのが当然であったから、これで不便はなかったのだろう」という。鍵で開ける方式は「家を守りひたすら亭主の帰宅を待っているという義務から妻を解放した」ばかりでなく、遅い帰宅を待つ妻を気にかける「亭主の側の自由を拡大した」とも◆家族全員が外出する場合、玄関の戸締まり後、勝手口などの戸を外から閉めたと推測。戦前は今の平べったい鍵ではなく棒鍵という太くて重いつくり。ポケットに入れて持ち歩くことはできなかった◆夏は在宅時、玄関を網戸にする。鍵はかからない。この夏、いつの間にか猫が開け方を覚えた。問題は開けたままで閉めないことだ。