連載・特集

2024.8.1 みすず野

 楽しみにしているラジオ番組がいくつかある。この頃は、聞き逃しても一定期間内ならいつでも聞かれるサービスがあって重宝している。その一つから聞き覚えのある歌声が流れた。すぐにあの歌手とわかる特徴的な声だ◆生誕100年を迎えた米国の女性ジャズ歌手でピアニストのブロッサム・ディアリー(1924~2009)で、珍しいなあと思いながらしばらく聞き入った。1950年代に何枚もアルバムを発表。大きめの眼鏡をかけて歌う表情がアップになった56年録音の「ブロッサム・ディアリー+3」が知られる◆ジャズ評論家・寺島靖国さんは「この人の声と歌い方を一口で言いますと、ネコがミャオ―と鳴いたような」感じだと説明する(『サニーサイドジャズカフェが選ぶ超ビギナーのためのCDガイド』朝日文庫)。「これさえ出せば勝つというところがジャズにはあります」といい、彼女はその声で勝ったのだと◆『俳句・短歌・川柳と共に味わう猫の国語辞典』(三省堂)に「猫撫声」の語が載る。意味は「やさしく媚びるような甘い声」とある。彼女の声はこれではない。「甘い声」だが、りんと響いている。